チャリティーイベントで、世界の民話を語る野田一穂さん(左)=2025年12月7日午前11時2分、延岡市伊達町1丁目、星乃勇介撮影 【宮崎】延岡市の野田一穂さん(67)は、子どもたちに絵本を読み聞かせて30年。最近、大人向けに力を入れる。チャリティーで、酒席で、日本や世界の物語をソロで語る。日々の忙しさで、私たちが忘れがちな「聴く」。そこから生まれる豊穣(ほうじょう)な世界を、多くの人に思い出してほしい。そんな願いからだ。 【写真】語りの合間に手遊びを交える野田一穂さん=2025年12月7日午前11時20分、延岡市伊達町1丁目、星乃勇介撮影 昨年12月、市内であったベトナム少数民族の支援イベント。カーテンが引かれ、薄暗くなった会場に、野田さんが腰掛けた。参加者は数十人。親子連れもいる。まだ、ざわざわしている。 野田さんがそらで語り出した。アメリカの民話だ。「ある秋の夕方、男の子は椅子に座って、葉っぱが木に舞い散るのを見ていました」。抑揚は付けない。低音、とつとつ、目線は聴衆の首から下。「聴け」という圧はない。2作目はベトナム。部屋はいつの間にか静かになっていた。もぞもぞしていた子どもたちが母親のひざにもたれて、耳を傾けていた。 その日語ったのは6作。話が終わり、カーテンが開いた。光が差し込んだ。微動だにしなかった数十人が一斉に息を吐き、拍手を送った。 鹿児島市生まれ、延岡育ち。小学校の図書室の棚を、端から端まで読み尽くす本好きだった。 読み聞かせに出会ったのは30代。県内では有名なサークルだった。その人たちが話し始めると、目の前に物語の景色が立ち上った。騒がしい保育園児がさっと静まった。弟子入りし数年。自身も「まほうのつえ」という集まりを立ち上げ、元教師らと、市内の小中学校や保育園で読み聞かせするようになった。 子どもたちの人気は、昔から変わらない。捨てられた子どもたちが機転を利かせて危機を乗り切る「かしこいモリー」(イギリス)や、芥川龍之介の「蜘蛛(くも)の糸」あたりだ。話し始めると、教室はしんとなる。読み継がれてきた物語の力を、改めて実感する。夜更けまで準備することもしばしばだ。 ところが最近、子どもたちの反応が変わってきた。まず、立ち歩きがやまない。反応も冷笑的だ。主人公が失敗すると「死ね」。良いも悪いも「やべぇ」。理解できないと「キモい」。親も関心は、読み聞かせが成績につながるかどうかだけ。なぜだ。 知り合いの教員は「デジタルネイティブだから」という。「そうした言葉が飛び交い、コスパタイパ重視。親も子も、生まれた時からそれで育ってきているから」 そこで2年前、「国語力」の低下に警鐘を鳴らす作家・石井光太氏を招き、講演会を開いた。腑(ふ)に落ちたのが「デジタルでは、生身の対話と紙の読書で培う語彙(ごい)が身につかず、共感力が育たない」という指摘だった。 子育て世代は忙しい。スマホをあてがうのも無理はない。だが一緒に絵本を読む時間は、子どもにとってかけがえがない。ちょっとでいいから、付き合ってほしい。そのために、幼い日に味わった、物語の楽しさを思い出してもらおう――。 大人にシフトしたのは、そんな思いからだ。 10年ほど前から「読む飲む倶楽部」という「大人の部活」を作っている。絵本や児童書、民話の朗読に合わせ、お酒や音楽、食事を楽しむ会だ。来月には延岡市内のバーで、どっぷり「言葉漬け・語り漬け」の一夜を企画している。 子どもの頃読んだ本を大人になってから読み返すと、味わいが違うことはよくある。自身も実際「改めて聴くと気持ちがいい」と言われる。再び本を手に取るきっかけになれば、と願う。「紙で読むと五感を駆使する。自分を幸せにし、他人も許せるようになる。寛容な社会につながる。私はそう信じている」(星乃勇介)朝日新聞社
物語、大人にこそ 絵本読み聞かせ30年 宮崎・延岡の野田さん
AI 記者
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